「で・・・そういう訳で今度の週末予定入っちまってさ」
「・・・」
学校での昼休み、長谷部は一人の女生徒と廊下で話をしていた、
女生徒は無言で長谷部を睨みつけている、
その女生徒と長谷部が付き合い出したのは三ヶ月程前からだ、
”あの”長谷部にまた彼女が出来たと学校内でも少し話題になった、
「ねぇ、先週もだったよね?」
「ああ、うん」
「ああ、うん、じゃないわよ、その前もその前もじゃない」
「悪かったよ」
「悪かったよって・・・」
女生徒はいまいましげに溜息をついた、
「嘘だと思ってたけど・・・噂って本当だったのね」
長谷部はその経歴もあって学校内でも名が知れている、
何しろたまに学校に取材が来たりするくらいなのだ、
それに格闘技に限らずスポーツ全般得意なので、
学校内でその運動能力を披露する機会もある。
容姿に関しては格闘技者という響きからイメージされるいかつさからは程遠く、
初対面の人からは十人中十人に染められていると勘違いされる赤毛もあいまって
一見チャラついた印象すら与えるような容姿をしている。
誰とでもすぐに打ち解けられる気さくさもある、
そこのあたりが女生徒達に受けがいいらしく、
色々とモーションをかけられる事もある、
しかし実際に付き合ってみると総じて長続きはしない。
原因はだいたい長谷部の方にある、とにかく付き合いが悪いのだ、
何かというと練習のほうを優先し、彼女の事は二の次になることが多い、
長谷部自身もこれではいけないとは思うのだが、
そう思って無理にデートなどの時間を取っても結局気もそぞろになり、
不評を買う事が多い、
ならば付き合わなければいいのだが、やはり長谷部も若い、
告白されるのは嬉しく思うし、相手が好みだったりしたら気持ちも浮き立つ、
ひょっとしてこの子とならうまくいくかも、と、雰囲気に流されてOKしてしまう、結果・・・
「いいわよ、もう、練習でも何でも好きなだけしたら?」
そういって相手は去っていった、
ああ、これは終わったな、と長谷部は心の中で思った、
そうして、長谷部の方も去っていく相手を追いかけもせず教室に戻る、
こんな事が繰り返され、誰とでも付き合うが長続きしないという評判が広がっている、

「よお、またかよモテモテ君」
「三ヶ月か・・・まだ持ったほうだな」
「うるせー」
教室に入ると先程の一部始終を見ていたらしい同級生にからかわれる、
「・・・原因はいつものごとくか」
「あー・・・まぁ、な」
呆れ気味に聞く男子に長谷部は椅子にだらしなく腰掛けながら答える、
「理解できん、全く理解できん、
女の子とのデートより汗臭くてしんどい練習を優先するとか!
俺だったらほっぽる!ほっぽってデートする!」
「まぁ頑張れ」
「華麗にスルーしやがったこの野郎」
後から羽交い絞めにしようとする友人を引き剥がす長谷部にもう一人の男子が言う、
「で、その彼女より大事な用事ってなんだ」
「・・・まぁ、新しいお師匠さんと顔合わせって感じか」
「あの子より魅力的なお師匠さんか・・・きっと超美人だな」
「手取り足取り教えてもらえ」
「ドMに調教してもらえ」
「てめえらな・・・」
下らない会話をしながら長谷部は名張の言葉を思い出していた、
自分を理解してくれる、とはどういうことだろう、
理解してくれる人がいるのだろうか、自分の中にある物を・・・
こんなにもどうしようもないこんな物・・・。

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